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An Officer And A Spy

ドレフュス事件を元にした小説です。
かなりよくできた本なので、翻訳されるといいな〜。

ちなみに、構成的には最初の500ページで淡々と事実が積み重ねられて、最後の100ページでクライマックスという感じです。
登場人物は、たとえそれがほんの端役だとしてもすべて実在した人物だそうで。偉いね、よく調べました!

ドレフュス事件どころか、ヨーロッパの近現代史の知識なんてさっぱりな状態から読み始めたので逆に発見がいろいろありました。

 

ドレフュス事件(と本書の)流れはこんな感じですよ。

  1. フランスは普仏戦争でプロイセン王国(とドイツ諸邦の連合軍)に破れ、鉱山資源の豊富なアルザス=ロレーヌを失い経済的に困窮する。
  2. ロスチャイルドなどのユダヤ系の金融資本が行った投資が失敗し金融恐慌が起き、ユダヤ人への迫害が強まる。
  3. フランス陸軍の情報部はドイツに情報を漏洩したとして、ユダヤ人アルフレド・ドレフュスを逮捕する。ドレフュスは経済的にも豊かでスパイ行為をする動機もなく、一貫して潔白を主張していたが、軍は証拠不十分のまま軍法会議で有罪を宣告し離島(その名も「悪魔島」)に幽閉する。
  4. 情報部の部長に就任したピカール大佐(本書の主人公)は、ドレフュスの逮捕後もドイツに情報が漏れていることを発見する。調査の結果、真犯人が別にいることがわかる。
  5. エステルアジという名のギャンブルで借金を重ねている男がドイツに情報を漏らしている証拠をつかんだピカール大佐は、エステルアジの筆跡がドレフュス有罪の根拠となった文書の筆跡と酷似していることに気づく。
  6. ドレフュスの無罪を確信ししたピカール大佐は、軍の上層部に進言したが揉み潰され、彼はチュニジアに左遷されてしまう。
  7. エミールゾラが新聞に「弾劾する」という告発記事を掲載、ゾラやピカールらは逮捕される。
  8. 国論を二分する論争が起き、軍の権威が失墜していく。

テーマになっているのは「モラルとは何か?」ということでしょうか。

  • 軍を守るため、証拠をねつ造し偽証する人々のモラル
  • ユダヤ人に対する無意識の反感を持ちつつ、無罪のドレフュスを救済するのが自分の職務上の義務だと思うピカール大佐のモラル
  • ユダヤ人を迫害し、ゾラの著作を焚書する人々のモラル

それぞれ人が自分の属する世界の中でのモラルに忠実に行動しているようにも思えます。
客観的に見ればピカール大佐のモラルがもっとも人道的であり正しいと思えるのですが、その行為は結果的に軍を傷つけドイツに対抗する必要があるフランスの国力自体を削ぐ行為であったかもしれません。たとえ、その状況を作った責任がピカール大佐に無いのだとしても。

「正しい」「正義だ」と思うことは実は相対的で違うことが当たり前なのです。
では、その相対的な多くのモラルが戦い合う現実の世界では、どこが落としどころになるのでしょうか?

この本を読んでモラルの仕組みに興味を持ち読み始めた「The Righteous Mind」の序文で著者Jonathan Haidtはこう書いています。

ティーンエイジャーのころは、世界の平和を望んでいた。
いまのわたしは、多様なイデオロギーが葛藤しつつも拮抗し、問題解決の手段として暴力を信奉する人が減っていくことを望む。